今中哲二さん講演「被ばく後を生きる」その2

今中哲二さん講演「被ばく後を生きる」その2

2014年5月25日(日)に、いわき市文化センターで行われた京都大学原子炉実験所の今中哲二さんの講演
 
「被曝後のこれからを考える。飯舘村の初期被曝線量評価からみえてきたもの ストロンチウム90の行方」をご紹介します。
 問題は最早、汚染による被曝をどこまで「ガマンするか」ということ。
「福島後の時代」(放射能汚染と向き合わなければならない時代)に私たちはどう生きるか、非常に示唆に富んだお話です。

その1はこちら
 → http://fukushimachildrensfund.org/20140730/1431
 

_____________________________________________

 

◆放射能とは何か

 私たちは「レントゲンを撮る」、あるいは「X線を撮る」と言いますが、それはどちらも同じ意味です。放射線を最初に見つけた人はレントゲンさんというドイツの物理の先生です。レントゲンさんは何をしていたかというと、真空管に電圧をかけると何か光が出るということがわかり、それを測る実験をしていました。真空管に紙を巻いてみたけど光を通さない、けど、離れたところに蛍光板を置いたら光った。何だか訳のわからないものがこの紙を通って出ている。訳が分からないということで「X線」と名付けた。それが1895年、わずか120年前のことです。

 どういう原理かといったら、真空状態のガラスや金属の管の中に金属の板を置き、片方に熱をかけると電子が飛び出ます。そこに電圧をかかると電子は移動し、どんどん勢いがつき、反対側のプラスの極にぶつかりますが、その強いエネルギーを持った電子が金属にぶつかった時に出てくるのがX線です。レントゲンさんが使った電圧は2万ボルトでした。

 いまは液晶ですが、かつてテレビやラジオはみんな真空管で動いていました。ブラウン管には数千ボルトの電圧がかかっていて、実はその表面から弱いX線が出ていましたけど、そのエネルギーは小さく空気が吸収するので、1〜2メートルも離れれば見ている人はほとんど被曝しません。この仕組みがX線で、機械で出す放射線です。電磁波でガンマ(γ)線と同じと覚えてください。健康診断で撮るX線は電圧が高く、だいたい100keV(10万ボルト)です。

 そしてその翌年、ベクレルさんという方がウランに太陽の光をあてて光を発する実験をしていて、ウランに放射能があるということを発見しました。ウランそのものは19世紀から、ガラス細工にウランを添加するときれいな色が出ることから使われていましたが、ある日、ウランと印画紙フィルムを一緒に机の引き出しの中に入れたままにし、何日か経って取り出したらフィルムが感光していた。これは何かが出ているということで、ベクレルさんはウランがX線のような放射線を出していることを初めて発見しました。

 そして、そのベクレルさんの研究を継いだのがキュリー夫妻です。ウラン鉱石を分析して、ウランにはラジウムやポロニウムという元素も混ざっていることを発見し、それでノーベル賞をもらいました。レントゲンの発見から10年、20年の間に、放射能に関するいろいろな発見がありました。

 中世ヨーロッパには錬金術というものがありました。鉄や銅などを煮たり焼いたり、溶かすことで、うまくしたら金に化けないかということをやっていたのですが、ことごとく失敗していました。ところがキュリーさんは、自然界でそういうことが起きているということを発見した。例えばウランはアルファ(α)線を出してトリウムに変わりますが、このように原子核が次々と変わっていくということを発見し、そういった現象に対して「放射能」という言葉を初めて使いました。

◆周期律表

 放射能のことを理解するために、まずは周期律表をじっと眺めていただきたいと思います。万物は、元素がくっついて分子になったりまた離れたりしてできています。私たちの身体もそうですし、建物などもそうです。空気そのものも元素が組み合わさってできています。では、世の中にはどれだけの元素があるか、それを示したのが周期律表です。天然に存在している元素の中で一番軽いのが1番の水素(H)で、一番重いのがウラン(U)で92番。1番水素、2番ヘリウム……と、軽い順に92番まで並んでいます。

 この並びを決めているのは原子核の中の陽子の数です。電子というのはツブツブでマイナスの電気を持ち、陽子はプラスの電気を持っています。原子核というのは、真ん中に陽子と中性子がある塊で、その周りを電子が回っていますが、その原子核の中にいくつの陽子が入っているかを表したのが、周期律表です。一番重いウランは92番ですが、ということは、ウランの原子核の中には陽子が92個入っているということを示しています。

 陽子はプラスの電気ですが、プラス同士のものは反発しあうので集めるのは大変です。これをくっつける役割を果たしているのが電気を帯びていない中性子ですが、その大きさは陽子と一緒です。陽子と中性子が塊になって原子核の真ん中にあり、その周りを電子が飛んでいる、そんなイメージです。

 私たちが呼吸している酸素(O)は8番ですが、ということは、原子核の中に陽子が8つある。そして原子量は16とありますが、これは原子核の中に8つの陽子と8つの中性子が入っているということを表し、それを合わせた数で、「酸素の16」という言い方をします。

 ウラン(U)にはウラン235とウラン238があり、ウラン235は原子炉の燃料にもなるということは、みなさん聞いたことがあると思います。ウランの陽子は92個ですが、そのウラン235の中に中性子がいくつあるかといったら、235から92を引いて143。ウラン235の原子核には143の中性子と92個の陽子があるということです。
 この「周期」というのは、メンドレーエフさんというロシアの化学者が19世紀の中頃に発見したもので、元素にはどうやら同じ性質を持っているものがある。例えば、一番左にナトリウム、カリウム、セシウムとありますが、これらはだいたい同じような性質を持っている。その隣にストロンチウム、カルシウム、バリウムとありますが、これらも同じようなものを持っている──ということを発見し、並べていったのが周期律表です。

◆放射性崩壊

 放射性物質の一つにコバルト(Co)60という元素があります。一方、天然にあるコバルトは27番でコバルト59といいます。原子核の中には陽子が27個と中性子が32個あります。

 では、その天然のコバルト59を原子炉の中に入れたら何が起きるか。原子炉の中というのは、核分裂をするために中性子が飛び交っています。そこに放り込まれたコバルト59はその一つの中性子を取り込み、コバルト60に変わる。すると、天然のコバルト59のときには安定していて放射線を出していなかったのが、中性子が多すぎる状態になり原子核は不安定になります。不安定ということは原子核が他の物になろうとする状態にあるということで、33個ある中性子の一つがベータ線という電子を出して陽子に変わります。

 中性子というのは本来、電気を帯びていませんが、中性子からマイナスの電子が出ると勘定を合わせるためにプラス1電荷したものになります。そして、中性子と陽子はほとんど重さが同じなので、結局、陽子というものができます。つまりコバルト60が放射線を出すといったときに何が起きているかといったら、中性子の一つが電子(ベータ線)を出し、それによって原子核の中の陽子が27個から28個になるので原子番号は一つ増えてニッケル60となる。そしてそのニッケル60原子核はできたてのときは落ち着きが悪いので、ガンマ線を出す。つまり、コバルト60が変身してニッケル60になるときには、ベータ線とガンマ線が同時に出る。これが放射性崩壊の正体です。ベータ線を出して原子番号が一つ増えるベータ崩壊の例です。

 プルトニウムの場合は、アルファ崩壊をします。プルトニウム239は陽子が少し多いのでアルファ線を出し、陽子2個(中性子2個)の塊が飛び出て陽子が94個から92個になり、プルトニウム239はウラン235になる。

 こういった形で、原子核が変身する際にベータ線を出したりアルファ線、それと同時にガンマ線も出したりして原子核は変身していく。その際に出てくるエネルギーが放射能で、その大きさは10万電子ボルトや100万電子ボルトと、それぞれの粒子が持つエネルギーはかなり大きなものです。

 私たちの身体も元素でできていますが、それらを結びつけているエネルギーはせいぜい数電子ボルトです。例えば手を動かしたときには、筋肉の中でエネルギーが縮めるとか伸ばすといった命令を出していますが、それは0.5電子ボルトといった微妙なエネルギーです。そんなところに100万電子ボルトといった放射線が飛び込んできたら、それは非常に大きな破壊力です。

◆核分裂

 例えばウラン235。ウランの原子番号は92なので、陽子92個と143個の中性子の塊です。そこに外から中性子をぶつけると割れて、そこから2個か3個の中性子が出てきます。そしてそれがまた隣のウランにあたって核分裂する。これが連鎖反応の原理で、原子炉が動いているということは、こういった反応が常に起きているということです。その反応にともなってできた破片を核分裂生成物といい、それは核分裂を起こしたら必ずできます。92個と144個、二つの破片に分裂するわけですね。

 その分裂の仕方というのは非対称で、大きい塊と小さい塊ができます。例えば92個の陽子が分かれて、陽子が38個と中性子92個のものができたとする。そうすると、ウラン92は38番のストロンチウム90となり、陽子が55個と中性子が82個となった場合は、セシウム137(55番)となります。

 核分裂したときにストロンチウム90ができる割合は6%で、セシウム137ができるのもだいたい6%です。原子炉を動かし続けるということは、原子炉の中にそういうものが溜まっていくということです。そして核分裂でできたセシウム137は不安定なので他のものに変わろうとしますが、セシウム137はベータ線を出して55番から56番に変わるのでバリウム137となり、そこで落ち着き安定するので、それ以上は変身しません。

 そのバリウム137に変わる過程にはストーンといく場合と、途中に引っかかりがあってトンッと落ちていく場合がありますが、後者の場合はそのひっかかりの後、原子核の中からガンマ線を出します。そのときにでるガンマ線は662Kev、6万6200電子ボルトです。これは決まったエネルギーなので、このエネルギーを測ることで、牛乳の中にはセシウムがいくらいくら入っているということが測定できるというわけです。

 そこでややこしいのはストロンチウム90の測定です。なぜかというと、ストロンチウム90は2段階にわたってベータ崩壊しますが、その際にガンマ線を出しません。38番のストロンチウム90の半減期は29年なので29年かけてベータ線を出して39番のイットリウム(Y)90に変化しますが、その質量数は変わらず、引っかかりがないのでガンマ線を出しません。さらにはそのイットリウム(Y)90も落ち着きが悪いので、もう一度ベータ崩壊をし、中性子が陽子に変わって、38番のストロンチウム(Sr)90が39番のイットリウム(Y)90になり、さらに40番のジルコニウム(Zr)になる。それで初めて落ち着いて放射線を出さなくなるというわけです。

 このようにストロンチウム90は2段階にわたってベータ線を出しますが、ガンマ線を出さないのでベータ線を測らなければならず、これがまた大変な手続きです。さまざまなステップを経て選り分けたりいろいろと化学処理しないと、ストロンチウム90は測れません。

 幸いなことに、福島の事故では、ストロンチウムは大気中にはあまり放出されていません。チェルノブイリの事故と違って原子炉そのものは爆発していないので、福島の事故で大気中に出た放射能というのは、溶けた放射性物質のうち揮発性が高く外に出た物が中心です。セシウムやヨウ素は揮発性が高いので外に出ていますが、ストロンチウムはそれに比べたらかなり少ない量です。

 ストロンチウムの汚染が一番ひどいのはウラルの核惨事です。ソビエトが原爆を作るために、南ウラル地方にマヤークという原子力コンビナートを作り、1948年に原子炉が動き始めました。ところがすぐに廃液処理施設が満杯になってしまったので、高レベル廃液を近くのテチャ川という川に垂れ流してしまった。そういうことが1948〜50年ごろにありました。ここはチェリャビンスクという町の近くですが、そこは去年(2013年)、隕石が落ちたことで有名になった町です。

 そしてさらには1957年には、高レベル廃棄物置き場が化学爆発を起こしています。テチャ川の上流はだいたい60キロ位にわたって深刻な汚染が生じ、いま現在この川べりの村の人びとは避難しています。私も2回ほど行きましたが、ムスリュー川というキレイな大きな川があって、ここで16μSvあったので大変なものですが、牛や馬が水を飲んでいて・・・・・・。

 地元の人もストロンチウムの汚染を測っていますが、きちんと測定し始めたのは1970年代です。身体の中にあるストロンチウム90の量が、70年代でだいたい10万Bqでした。事故当時のデータはありませんが、おそらく数十万Bqであっただろうと推定できます。ストロンチウム90というのは骨に溜まるので、20年経ってもその量は大して減りません。セシウム137であれば、だいたい100日で半分になりますから、福島の場合、3年前に大変な吸い込みがあったとしても、そのほとんどは身体の外に出ています。けど、ストロンチウムはずっと残る。その影響でテチャ川周辺の人に白血病やガンが増えています。

(3)につづく

ページトップへ