福島訪問記

広河隆一 写真展事務局のこと

未来の福島こども基金の姉妹団体であるチェルノブイリ子ども基金は、1991年に東京都杉並区の広河隆一事務所内に作られました。そして同年の91年5月に埼玉県新座市に広河隆一写真展事務局がオープン。事務局に近いところに住んでいた私や近所の主婦、あるいは県内でも坂戸市、所沢市など遠くから通う女性たちが全国へ写真を貸し出す業務を担うことになりました。新座での10年におよぶ間、全国で約800回の写真・絵画展の展覧会が開かれました。

そして、写真展事務局は2002年に三重県津市に移設しました。埼玉の事務局で扱っていたのは、広河さんのチェルノブイリと核関連の写真&チェルノブイリの子どもたちの絵画のみでした。現在は、広河さんが取材されたほとんどの分野の写真を管理し、貸し出すという大きな事業を担っています。会の名称を「広河隆一 非核・平和写真展開催を支援する会」と変え、法人格もとりました。事務局長は宮西いずみさんです。昨年(2014年)12月、NPO法人10年の記念展覧会が津市で開かれ、埼玉時代から引き続き写真展運営の末端にいる私とKさんも参加しました。

しかし、津に移ってから13年が経ち、今、会は運営の危機に瀕しています。写真展開催をしたい個人や団体はめっきり減っています。今はネットでなんでもみられる時代です。状況が変わってきたのでしょう。それでもパソコン画面の中ではなく、実際に大きくパネルに焼かれた写真をじっくり見たい、という声がまだあるのも事実です。

できるだけ事務局を続けたいと、事務局長の宮西いづみさんは、2015年4月から事務局を自宅に移すことを英断し、地元の人たちの協力のもと、引っ越し作業がほぼ終了したところです。

一区切りついた今、福島へはとうてい行けないだろう、と半ばあきらめていた宮西さんでしたが、今回、私たち(向井、Kさんご夫妻)と一緒に福島訪問が実現しました。

原発震災4年目の福島を訪問

埼玉のKさん夫妻が車を出してくれることになり、3月26日朝から27日の夜まで埼玉と福島を往復し、福島県内を車で回りました。
せっかく行くので、と、訪問先の筆頭にあがっていたいわき放射能市民測定室・たらちねのほか、当基金が支援している「市民測定所・にんじん舎」(郡山市)「あぶくま市民放射能測定所」(えすぺり)などを訪問することにし、道中動きながら連絡をとりました。

たらちね訪問

7時に埼玉県を出発 10時半いわき・たらちねに到着

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  • 事務局長の鈴木薫さんが、食品測定、ホールボディカウンター(WBC)、甲状腺検診について説明。
    それも単なる説明ではなく、測定所設立の経緯、ご自分が関わったいきさつなど、わかりやすく説明していただきました。
  • WBCは今、下請け中小の会社の原発事故処理作業員の人たちが利用されているそうです。
  • 甲状腺検診は日程が決まっていて、訪問の日は休みでした。移動検診も行っています。

ベータ(β)ラボの見学

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  • 3人の担当者が忙しく働いていました。素材を洗ったり、絞ったり……。
    それぞれ、ストロンチウム、トリチウム、イットリウム、と測るベータ線の担当が決まっているとのことです。

    たまたま、たらちねに来られたいわき市議の佐藤和良さんとも会いました。
    佐藤和良さんとは首都圏の集会でよく、会います。たらちねの理事の一人です。

    • ※βラボ;β線核種であるストロンチウム90やトリチ ウムは、測定方法が難しいことから一般的に測定されていませんでしたが、原発事故による放射性物質の飛散と、事故現場での大量の汚染水の漏洩、コントロールのきかない海への排水により放射性物質拡散による生命への影響が今後、ますます心配される状況です。 そういった背景から、この度「たらちね」ではβ線核種であるストロンチウム90とトリチウムの測定を行うことにいたしました(鈴木薫さん)。
    • ※βラボ内に設置された機器類
      「液体シンチレーションカウンター(β線を測定するフィンランド製の高感度放射能測定器)」「電子レンジマイクロウェーブ」「電気炉」「乾燥機」「超純水製造機」「遠心分離機」「電子天秤」「高速燃焼チャンバー」
  • βラボの責任者、天野光さん(工学博士・元原研研究員)は、ポーランドから見学にこられたお客さまの対応に終始されて、あいさつを交わせただけでした。
    海外からのお客さまは普通、通訳を連れて来られるそうですが、この日は一人。英語が得意の天野さんが対応ということになったようです。
  • また、この日の午後、楢葉町議会が測定方法などについて相談に来られるということでした。帰還に向けて空間汚染マップを作成したいのだそうです。たらちねの仕事ぶりが高く評価されているのでしょう。

原発の見える双葉郡&飯舘を通過

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車の中で、一番高いところで1時間あたり2.53マイクロシーベルトありました。飯舘を通過しましたが、そのときは0.9ぐらい。2年前、飯舘を通って南相馬に行ったときよりは数値は低かったと思います。しかし、汚染した土壌を収納しているフレコンバッグの山に一同絶句。それもあちこちにありました。
あの塊りはさぞや放射能値が高いだろうと思いました。

市民測定所「郡山 にんじん舎」訪問

途中で電話をしたら、午後4時半までいます、ということでギリギリセーフでした。
就労継続支援B型事業所・共働作業所であるにんじん舎では5,6人の方たちが福島名物・薄皮まんじゅうの箱作りをされている真っ最中でした。

測定担当の女性の方は不在でした。
作業所の奥に測定器が置いてあります。お米が獲れる時期には測定してほしいと収穫したばかりのお米を持ってこられる方もいますが、今はほとんど持ち込みはなく、自前の野菜を測っているそうです。田村市三春町に暮らす福島原発告訴団の武藤類子さんのお連れ合い・佐藤しんやさんも、ときどき測定に参加しているとのことでした。

会津若松で宿泊

現在、除染作業員など多くの人たちが原発およびその近くで働いているため、いわき、郡山のホテルはどこもいっぱいでとりにくい状況とのことで、会津のホテルに予約していました。会津は山も真っ白、周りも道路以外は雪がいっぱい。宿からはすてきな雪景色を眺めることができました。三重県からいらした宮西さんも私たちもこんな雪景色は今年初めて。一般道を移動して、道中の景色を楽しみました。

翌朝8時過ぎ、三春に出発

前日都合を聞き、野菜とパンのお店・えすぺりに行く前にと、同じ三春町の類子さんと佐藤しんやさんに会いました。
ライスレイクというすてきなカフェで待ち合わせました。

http://miharu-mifa.com/ricelakehousu/

佐藤しんやさんは、今告訴団の事務局の仕事をされていて、最近はにんじん舎の測定にはなかなか加われないと話していました。

フレコンバッグは三春の場合、山の上に置いてあるので目につかないけれど福島のどこでもある、と類子さん。翌日から関西のほうに講演に行くと言われていました。全国に福島の現状を訴えてほしいのですが、健康にはくれぐれも気をつけてと願っています。

野菜とパンの店えすぺり

http://www.esperi311.com/

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田村市にある「あぶくま市民放射能測定所」の大河原夫妻が、三春町で「えすぺり」を運営しています。
前日、電話を入れたところ、10時から6時まで営業しているとのことで、11時ごろお邪魔しました。カラフルで木のぬくもりが伝わるすてきなお店でした。店内にあるギャラリーでは個展も開催中でした。

野菜は自前のものと周りの農家のもの。測定は、それらの野菜が主とのことでご自宅の近くのかぼちゃ小屋で息子さんが測定をしています。息子さんは、今年、有機農業関係の役員になり東京に来ることも多く、忙しいとのことです。息子さんには会えませんでした。
私たちは野菜などいろいろ買ってきたのですが、

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お客さんは来るのか?
人はいるのか?

ちょっと不安に思いましたがきっと車で来る人などがいるのでしょうね。
また、役場の近くでしたから役場に寄った人や職員さんなども来られるのかもしれません。予約でお弁当も扱っていました。三春は滝桜が有名ですが、全体が美しいところです。でも、あの山の上にフレコンバッグがあるのか?と見上げましたが、見えませんでした。

2015年3月末 向井雪子・記

宮西さんからの感想が届きました。合わせて掲載します。

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「浅い知識で、大きな象をちょっと撫でてきたような私ですが 貴重な「福島行」を体験させていただいてきました。

今「福島民友」新聞を購読していますが (二日遅れの郵送で届きます) その紙面に、毎日、各地の測定値が細かく掲載されています。 それを見ていると、 あの日、車中で向井さんの測定器が示した数値を思いだし、現実感がよみがえります。

そして、2.53の何倍もの数値が日々続いているところが 老人施設のすぐそばなのだと知ります。
(近視とはいえ)あの、黒く塗ったブロック塀なのかと錯覚したほどにも 高く=5個の積み上げ=連なるフレコンバッグの山を思い出しています。

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