あぶくま市民放射能測定所は緑の美しい山あいに、有機農業を営む大河原さんの自宅を利用して開かれています。大河原さん夫妻は長年、農業のかたわら、農閑期には人形劇団『赤いトマト』を主宰して、近隣の子どもたちに人形劇を見せており、放射能測定器は、そんな人形劇を自宅で行うための芝居小屋『かぼちゃ小屋』に設置してあります。測定を担当するのは夫妻の息子である大河原海さんです。
測定所のある辺りは、近くにそびえる大滝根山の尾根に守られ周辺に比べて放射能汚染が少なく、そのためか測定所を利用するのは、地元の人よりも、放射線量のより高い地域からの人が多いということです。10月に測定所が始まってから半月以上が経ちますが、測定の依頼はほぼ毎日つづき、多いときには日に5検体の測定を行うそうです。
お話を伺った大河原多津子さんは、測定を始めてから、自宅でとれた作物をめぐって家庭内に亀裂のある家族が多いのに気付いたといいます。
「今、おじいさん、おばあさんが作ったものを孫に食べさせられないなど、そういう家庭内の亀裂がすごく多いんです」と、大河原さん。「最近も、おじいさんの作ったお米を、お嫁さんがどうしても心配で子どもには食べさせたくないと言ったことから、おじいさんが怒ってしまい、自分独りでご飯を炊いて食べるようになってしまったという話がありました」「私は生産者でもあり、母親でもあるので、そのおじいさんの気持ちも、お嫁さんの気持ちも両方わかるんです。だから、実際に測ってみて高い数値が出てしまったときに、どう応えていいのかわからないんです」
ただ大河原さんは工夫次第で汚染を減らすことはできるといいます。例えば、大河原さんの実験では、セシウムの値が玄米の状態で250ベクレルだったお米が、白米にすると半分以下のおよそ100ベクレルにまで下がり、それをさらに何度も研ぐことで40ベクレルにまで減らすことができたということです。
「高い数値が出たらもう絶望して捨てるしかないというのではなく、大幅に数値を下げることもできるということを皆さんに知っていただきたい」「私たちがこれからやるべきことは、作るほうも食べるほうも、まずは測定をして、放射能の値を明らかにすること。その上で、できるだけ汚染を減らして、自分たちで大丈夫と思える基準値を決めて食べること。そうやって暮らしていくしかないんです」放射能とともに暮らさざるをえなくなった現実を見すえて、大河原さんが語ってくれました。